イタリア料理研究家 朝倉 絵里子さん 第二回

“イタリア”といえば、パスタの国。もちろん、パスタと言えばチーズは欠かせません。そんなイタリアで料理修行された朝倉 絵里子さんにインタビュー。

朝倉 絵里子/イタリア料理研究家

Profile:雪印乳業㈱(現:雪印メグミルク㈱)宣伝部で9年間、料理に関する業務に携わり、その後、イタリアに渡りピエモンテやトスカーナで4年弱シェフ修行。
現在は自宅でイタリア料理教室を開講。
チーズやワインについての知識も豊富で、ワインアドバイザー資格も有する。

イタリアから帰国、その後

三年九ヶ月に及んだイタリア修行を終えて帰国されてからは、どうされたのですか?

帰国してからは、漠然とですが料理教室をやろうかな、というのは考えていました。イタリアに行く前に、料理の仕事で独り立ちしたいと思った時、参考にしていたのは、仕事で関わった料理の先生方だったので、自分も料理教室を開きながら、いろいろと料理に携わる仕事が出来ればいいな、と思っていました。

ただ、イタリアに行って、レストランの仕事もとても充実した時間だったので、日本でレストランで働く事も考えました。何軒かイタリアンのお店に話を聞きに行ったりしましたが、当時33歳だったのですが、それくらいの年齢だとお店でトップを任せるくらいのスキルの人が求められるようです。日本でのレストラン経験が無かったので、一から見習いのような形で入る事は出来るけど、それはお勧めしないとシェフの方々に言われました。私の経歴からすると、イタリアでの修行経験を活かせるよう、自分でやられるのが一番いいと思いますよ、と勧められました。

そのアドバイスを受けて、どうされたのですか?

私自身もそうだろうなって思いましたし、自分で出来ることはなんだろうなと考える中で、料理教室は昔通っていた経験や、先生方の姿を見ていたので、自分の中で想像しやすく、しっくりときました。始めやすかったというのもありますね。

レストランではなく料理教室?

レストランもすごく憧れていたんですけど、一人じゃできないっていうのがあったんですよね。今だとそういう形態もあるのかもしれないですが、“一人で”っていうのは私には身に余るなっていうのと、周りのシェフの方から経営の大変さや苦労なども聞いていたので、お店を開くまでの勇気は持てなかったですね、正直。

やっぱり「長く続けるにはどうしたらいいのか?」と考える中で、自宅で料理教室を開くという形であれば長く続けられるのではと考え、決めました。

教室はどれくらい続いていらっしゃるのですか?

2005年から始めたので、もうすぐ、2025年で20年です。

20年!すごいですね!長く続けられた秘訣は何だと感じていらっしゃいますか?

本当にありがたいことですね。始めるのも大変ですが、やっぱり続けることはもっと大変だと思うので。とにかく教室に来ていただいた方には、なるべく楽しい時間を過ごしていただきたい、という気持ちは忘れないようにしたいと思っています。

あとは、あたりまえかもしれませんが、自分のやれる事はいろいろやってみようと思って続けてきました。出張料理教室をやってみたり、市の料理教室で講師をしたり。百貨店のイタリア展のお仕事や、料理の撮影の仕事もさせていただいたり。ずっと続けていくにはどうしたらいいのか考えると、今の形だったというのはあるかもしれません。

料理教室の生徒さんは、最初はどのように募っていたのですか?

最初は、雪印乳業時代の元同僚が知り合いを連れてきてくれたり、ホームページも作っていたので、そこで募集をしたりしていました。あと、地域新聞にも広告を出しました。最初はとにかくお客さんに認知してもらわなきゃ!っていうので、いろいろやっていたら、反応がまあまあありまして、生徒さんが来てくれたんですよね。

生徒さんは、主に同じ地域の方ですか?

そうですね、主婦の方が幼稚園のママ友同士で来てくれたり、パート先で出会ったっていう主婦の方々が来てくださったりとか。 学校のママ同士、“ママ友”さん繋がりっていうのも非常に多かったですね。平日はやっぱりそういうクラスがほとんどで、土日になると、お勤めしていらっしゃる方が多かったですね。ホームページを見た方が一人で来てくださったりというのもあります。

パスタ料理
サルディーニャ風手打ちパスタ
~自家製サルシッチャのソース~

マッロレドゥスというサルディーニャ島のパスタ。
い草で編んだ籠の上に転がして、筋模様をつけるのが特徴のパスタですが、教室では簀の子を使って模様をつけています。

料理教室を通して伝えたいこと

朝倉さんは、料理を通してどんなことを伝えたいと思って活動されていますか?

そうですね、イタリアンってこういう成り立ちだよっていうのはお伝えしています。イタリアは州ごとに料理が違うので。「〇〇州の料理」というようにテーマを決めてやっているのですが、そういう中で、日本ではあまり知られていないお料理を取り上げると喜んでもらえますね。

例えばパスタ料理では、パスタの種類がたくさんあって、形もさまざまなので、そういうのを手打ちで作ったりして、幅広くお伝えするとすごく喜んでいただけて、そういう反応も嬉しいですね。できれば、そういう「食の世界が広がる」料理を紹介したいっていうことはあります。

あとは、地産地消ですかね。やっぱり旬のものにこだわって、国産のものにこだわって“季節感を出す”ことは大切で、食材を通して「もうこんな季節なんですね」なんて教室で感じてもらえて、「今年初です!」とか言ってもらったりするのも嬉しいです。そして何より“家庭で簡単に作れる”っていう、これが私が大事にしてるポイントで、生徒さんには割と「再現性が高い」と言ってもらえるんですけれど、それはすごく大事なことだと思っています。

これをやって、あれもやってというように工程が多すぎるのも、作る前から負担になってしまうようです。初めの頃は時間も手間もかかる料理が多かったのですが、教室で皆さんで一緒に作る分にはいいのですが、自宅で一人で作ると三倍の時間がかかると言うご意見を聞いて、レシピも見直して、手順としてここは大切だからこだわるけど、ここは割愛してみよう、というように「家庭でも作りやすい」ということを意識しながら作っています。

それは嬉しいポイントだと思います!

自宅で再現してもらって「作りました!」とか、「娘が喜んでました!」なんて言っていただけると、「お役に立ったんだな」って、とても嬉しく思います。

愛用のイタリア製手打ちパスタの道具類

教室を続けていく上で、いろいろご準備など大変かと思いますが、そういうお声があるとまた次の励みにもなりますね!

長く続けていると、新しいレシピの発想みたいなものを求めたくなる時もあるのかなと思うのですが、そういう時はどうされているのですか?

もちろん伝統的なものもやりますけれど、イタリアンの手法を大事にしながら自分で考えた新しいものもやっていくようになりました。
イタリアンでは使わない調味料等は使わないけれど、食材は日本ならではの物も取り入れたりしています。

例えば、カルチョッフィ(アーティチョーク)をイタリアでは旬になるとよく食べるのですが、日本では筍が少し似ているなと感じたので、そこからレシピを考えてみたりですね。

レシピのアイデアはどのように仕入れていらっしゃいますか?

レストランに食べに行って参考にすることもありますし、スーパーで食材を見ながら考えたりと、いろいろです。結構前職の経験が活きていて、常に頭の片隅でレシピを考えていて、“この食材をこんな風に使ったら、こうなるかも”みたいに考えることがわりと好きだったので、それが今も活きているのかもしれないですね。

「あ、これを入れても美味しいかも」とか、「この素材で組み合わせたらどうだろう」なんてイメージしながら外食するのも楽しかったりしますが、そういう感じでしょうか?

そういう感じです!こうしてみたらできるかな、こんな風に盛り付ければ綺麗にできるかなとか、そういうのはありますね。

想像の中でも美味しく料理ができたなみたいな。

そういう感じです。やっぱりイメージがつかないと次の作業に入れないので、割と頭の中でぐるぐると考えている時間が1番長いですね。何にしようかなって。

そういう時間も楽しいなっていう感じですか?

楽しかったり、苦しかったり(笑)もう絞っても絞っても新しいものが出てこない、あれもやって、これもやって、それもやった・・・みたいな感じにもなっちゃって。やっとできたと思っても、同じような料理になることもあるんですよね。長く来てくださる生徒さんが多いので、「すみませんね」って言うと「いや、忘れているから大丈夫です!」「勉強になるから大丈夫です!」って言ってくださって、そんな優しい生徒さんたちに励まされてやっています(笑)

料理を通して生徒さんと良いコミュニケーションを築かれているなと感じます!

料理教室はこれからもずっと続けていきたいと思っていらっしゃいますか?

ぜひとも私はやりたいですけれど、生徒さんたちが来てくださってこそなのでね。でも、来てくださる限りは続けたいですよね。うん。

第三回に続く

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