糖尿病や骨粗鬆症が気になる方にはチーズがおすすめ

糖尿病は血糖値が140mg/100mL以上の状態が長時間続く疾患です。血糖値が高いと失明、糖尿病腎炎、手足のしびれなど様々な合併症を伴う場合があります。その患者数は1,000万人、年間医療費は1兆2,239億円にもなります(日本生活習慣病予防協会)。

一般的に、食事をすると炭水化物が分解されグルコースとなり血中に移行します。すると、膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、グルコースを筋肉に貯蔵します。貯蔵されたグルコースは運動する際にエネルギー源として使われます。しかし、炭水化物摂取量が多く日常的な運動をあまりしないと筋肉だけでは収納しきれなくなり、脂肪に変換され脂肪細胞に蓄えられます。なので、日常的に運動量が少ないにも関わらず過剰に炭水化物を摂取していると、肥満のリスクが高くなる可能性があります(図1)。

図1 血糖値の低下と上昇に関わるホルモン

しかし、インスリンの分泌が少ない方は血中グルコースを筋肉に貯蔵しにくいので血糖値が高い状態が続きます。これが糖尿病です。したがって、糖尿病の方は血糖値の上昇を緩やかにし、少ないインスリン量でもグルコースを筋肉に貯蔵できるようにすることが必要です。図2は、食事摂取後の血糖値が上昇して元の値に戻るまでの血糖値変化を示したもので、基準食(日本では糖質を50g含む米食)と被験食(調べたい食品)の面積の比をグリセミック指数(GI値)といいます。

図2 グリセミック指数 (Glycemic Index : GI値)

炭水化物含量が多くGI値が高い食品を高GI値食品、GI値が低い食品を低GI値食品といいます。表1をご覧になればすぐお分かりと思いますが、チーズなど乳製品は低GI値食品です。なので、血糖値が高い方にとってチーズは最適な食品なのです。

表1 高GI値食品と低GI値食品

【参考サイト】 http://www7.plala.or.jp/pon31/gi.htmlより抜粋

私たちの筋肉は合成と分解が日常的に行われており、通常は両者のバランスがとれています。運動により筋肉が分解されればインスリン様成長因子(IGF-1)というホルモンが筋肉の合成を促します。しかし、IGF-1の少ない方は分解される筋肉を補うだけの筋肉が合成されません。そのため、筋肉量が減ったり筋肉の機能が低下したりするサルコペニアという状態になりやすくなります。特に、高齢者の方は食事量が少ないことからサルコペニアになりがちです(図3)。

図3 筋肉の合成と分解のバランスとホルモンの関係

また、肥満して腹部脂肪が増え、筋肉量が低下すると糖尿病のリスクが上がります。これらはインスリン抵抗性と関連しているためです(Guo et al, Adv. Nutr. 2019 doi:https://doi.org/10.1093/advances/nmz050)。したがって、適量のたんぱく質を摂取することが重要です。その点、乳たんぱく質は筋肉合成に必要なアミノ酸を多く含み、体内に吸収される必須アミノ酸の割合が高いたんぱく質(PDCAAS法 WHO Technical Report Series 935, pp83-102)なのです。
少量でも良質な乳たんぱく質を摂取可能な食品といえば、そう、チーズですよね。
つまり、チーズは低GI値食品なので、血糖値の上昇がゆるやかになります。また、乳たんぱく質はIGF-1を増やし、インスリンの分泌を促します。
ノルウェー科学技術大学のAuneらはチーズと糖尿病の関係に関する8件の論文を再解析し、チーズ摂取量が50g/日までであれば摂取量が多いほどリスクが低いことを報告しています(Am. J. Clin. Nutr., 98: 1066-1083, 2013)。

健康維持のために重要な骨密度の維持改善にもチーズが有益です。チーズが骨密度の維持に役立つことは知ってるよー、だってカルシウムが豊富だから、という方が多いと思います。その通りです。でもチーズが骨密度の維持改善に役立つのはカルシウムが多いということだけではありません。

図4 骨の組成とチーズ

骨は骨塩(主としてリン酸カルシウム)と骨基質(主としてコラーゲン)からできています(図4)。建物に例えれば、骨基質は柱、骨塩は壁に相当します。柱が弱く、壁だけしっかりしていても、逆に柱は強いけど壁が薄っぺらだと建物としては不合格ですよね。骨も骨塩のみならず骨基質もしっかりしていないと強靭でしなやかな骨になりません。コラーゲンはたんぱく質なので、良質なたんぱく質を原料として生体内で合成されます。チーズをはじめ牛乳やヨーグルトは豊富なリン酸カルシウムと良質な乳たんぱく質の供給源です。

骨密度が低いと骨粗鬆症になりやすくなります。高齢者に多い疾患なので、若い方は自分には関係ないと考えているようです。しかし、全国骨密度調査2005、2006報告会(上西一弘、2007)によれば、60歳以上の骨密度が同年代の平均骨密度の85%以下の方は2.6%ですが、20-39歳では5.1%と報告されています。これは牛乳・乳製品の摂取量が少ないことが原因の一つと考えられます。高齢者の方は勿論、若い方々も油断せず日常的に牛乳、チーズ、ヨーグルトなどを摂取することが必要です。

今後さらなる研究が必要ですが、チーズは糖尿病やサルコペニアのリスクを下げ、骨密度の維持改善に有用と考えられています。そして、そのキーワードはカルシウムのみならず良質な乳たんぱく質の供給源だからなのです。

Textおよび 図1.3.4、表1:Shunichi Dosako

堂迫俊一さん 農学博士(元・雪印乳業(株)技術研究所 所長、現・(NPO法人)チーズプロフェッショナル協会 顧問)

Profile:1974年雪印乳業株式会社入社。以来、大阪工場、技術研究所、研究企画部、栄養科学研究所、育児品開発部などを経て、2002年技術研究所所長に。2007年定年退職後、雪印メグミルク(株)ミルクサイエンス研究所主事としとして勤務。その後は(NPO法人) チーズプロフェッショナル協会顧問、(一社)Jミルク 酪農乳業史料収集活用事業推進委員を務めた。
著書:「チーズを科学する」(共著)チーズプロフェッショナル協会発行 幸書房 2016年11月11日発売。「新版 牛乳・乳製品の知識」 幸書房 2017年10月25日発売。

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