チーズを食べて高血圧を予防

「抗酸化」とか「血液サラサラ」、あるいは「血液ドロドロ」といった言葉をTVでしばしば耳にします。そもそも「血液ドロドロ」とはどういうことなのでしょうか。コレステロールの中で俗に悪玉コレステロールと呼ばれる“LDL-コレステロール”が増え、一部が酸化され“酸化型LDL-コレステロール”になると血管内に蓄積し、血管が狭くなるため血流が悪くなります。すなわち、“血液ドロドロ”となります。その結果、高い圧力をかけないと血液が流れにくくなるため“高血圧”になります。さらに症状が進むと、血管が破れ、重篤な状態を招くことになります。
しかし、コレステロールは肝臓で合成され、細胞増殖やホルモンの合成などに使われる極めて重要な脂質です。つまり、LDL-コレステロールが悪玉なのではなく、酸化型LDL-コレステロールが悪玉なのです。LDL-コレステロールは血管内の「レセプター(受容体)」と呼ばれる指定席に座ります。そこへ“HDL-コレステロール”(いわゆる善玉コレステロール)がやってきて、LDL-コレステロールを排出します(図1)。したがって、LDL-コレステロールの酸化を抑えること、そして血液中のHDL-コレステロールを増やすことが“血液サラサラ”のために重要なのです。

図1 LDL-コレステロールとHDL-コレステロール

私たちは酸素がないと生きていくことができません。その一方で、酸素の一部(2%程度)が活性酸素と呼ばれる成分に変わります。活性酸素は、病原菌を分解するなど殺菌力が強く、私たちの健康維持に重要な働きをします。しかし、活性酸素が過剰になると、病原菌ばかりでなく正常な細胞にも障害を与えてしまいます。そうした逆効果の一つがLDL-コレステロールの酸化なのです。このように、活性酸素やコレステロールはとかく悪者扱いされるのですが、適正な濃度であれば私たちの健康維持に重要な成分です。過剰になるとありがた迷惑な存在になるのです。いますよねー、我々人間社会にも・・・。
世の中には抗酸化とか血液サラサラを訴求するサプリメントが販売されています。こうしたサプリメントの利用もいいのですが、適正量以上に摂取すると活性酸素やコレステロールの“よい働き”をも抑えてしまいますので要注意です。
その点、チーズには活性酸素を穏やかに抑え(抗酸化作用)、血液中のHDL-コレステロールをゆるやかに増やす働きがあります。抗酸化活性は測定方法により数値が異なりますが、東海大学名誉教授の井越敬司先生によれば、どのチーズにも大なり小なり抗酸化活性があり、なかでも、かび系、ウォッシュタイプには高い抗酸化活性があると報告されています。(井越、J-milk H20 学術連合委託研究報告書 p153-169, 2009)(図2)。

ゴルゴンゾーラ
カマンベール
ボン・レヴェック

図2 抗酸化活性が高いチーズ 井越敬司 J-Milk H20 学術連合委託研究報告書 153-169, 2009を参考

北欧で行われたチーズ摂取量と血中脂質の関係を調べる調査では、チーズ摂取量が多くなるほど血中HDL-コレステロール濃度は高くなっています。一方、中性脂肪についてはチーズ摂取量が多いほど低くなっています(図3)。

図3 チーズ摂取頻度と血中HDL-コレステロール濃度の関係(イメージ図)

このように、チーズには抗酸化活性があり、LDL-コレステロールの酸化を減らすことが期待できます。このため、血液がサラサラになり、高血圧になりにくく、動脈硬化などのリスクを下げます。しかし、これだけではありません。チーズの熟成中に乳酸菌やかびが出すたんぱく質分解酵素の働きによって、たんぱく質が徐々に分解され、様々なペプチド(アミノ酸が2-10個程度つながったもの)やアミノ酸が生成されます。この熟成と呼ばれる発酵を経ることによりチーズは魔性のおいしさを生み出すのですが、同時に血圧の上昇を緩和するペプチドも生成するのです。様々なペプチドに血圧上昇緩和効果がありますが、中でも“ラクトトリペプチド”と呼ばれるアミノ酸が3個つながったペプチド(バリンープロリンープロリン、イソロイシンープロリンープロリン)は血圧上昇抑制効果を持つペプチドとして特定保健用食品に利用されています。血圧上昇抑制効果の高いチーズは図2に示したように、かび系、ウォッシュタイプ、長期熟成タイプなどです。
チーズは塩分含量が高いので高血圧になるのでは、と心配される方がいます。確かに塩分含量の多いブルーチーズには、100g当たり1,500mgのナトリウムが(食塩相当量だと3.81g)含まれます。しかし、1回に食べる量は30g前後で、実際の食塩摂取量は1.27g程度となります。食塩の1日あたりの目標量は男性で8g、女性で7g未満ですので、食事全体のバランスを考えてチーズを楽しみましょう。塩分含量が高めのチーズに、高血圧になるリスクを下げ、血液サラサラ効果があるとは、なんとも皮肉ですねー。

Text:Shunichi Dosako

堂迫俊一さん 農学博士(元・雪印乳業(株)技術研究所 所長、現・(NPO法人)チーズプロフェッショナル協会 顧問)

Profile:1974年雪印乳業株式会社入社。以来、大阪工場、技術研究所、研究企画部、栄養科学研究所、育児品開発部などを経て、2002年技術研究所所長に。2007年定年退職後、雪印メグミルク(株)ミルクサイエンス研究所主事としとして勤務。その後は(NPO法人) チーズプロフェッショナル協会顧問、(一社)Jミルク 酪農乳業史料収集活用事業推進委員を務めた。
著書:「チーズを科学する」(共著)チーズプロフェッショナル協会発行 幸書房 2016年11月11日発売。「新版 牛乳・乳製品の知識」 幸書房 2017年10月25日発売。

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