ミルクの歴史
もともと牛は狩猟の獲物。フランスのラスコーで見つかった旧石器時代の洞窟画には、荒々しい野生の牛たちがたくさん描かれています。人が牛を飼い始めたと思われるのが、今からおよそ8千年前。当時の遺跡から、家畜化されていた牛の骨が見つかっています。さらに時代はくだり、4〜5千年前のエジプトやメソポタミアの壁画、レリーフには、乳搾りの様子などが描かれています。殺して食べてしまうより、飼いならして栄養豊かなそのミルクを利用したほうが、ずっと安定した食糧となることを、古代の人もわかっていたのですね。以来、牛は人と寄り添い、人間の空腹を満たし健康を支えてくれました。牛がいなかったら、そのミルクがなかったら、果たして人類は今のように繁栄していたのでしょうか。そんなミルクと人々との繋がりを歴史の中に探ってみましょう。
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洞窟に描かれた牛たち
1940年南フランスのラスコーで、犬を探して洞窟に入り込んだ少年達によって発見された、旧石器時代の壁画です。世界で最も見事な先史時代の芸術のひとつ。輪郭を黒くふちどり、黒、赤、黄色、茶色など多彩な色を使って野生の牛や、馬、羊、ヤギなどを狩る様子が躍動感あふれるタッチで描かれています。牧畜が始まり、さらに乳の利用が始まるのはずっと後の時代です。
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古代エジプトの乳搾り
古代エジプトの石棺に搾乳の様子が刻まれていました。子牛を母牛の前脚にしばった状態で乳を搾っていますが、先に子牛に乳を吸わせて乳が出るのを誘ったあと、人間が乳を横取り?する方法がとられていました。
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乳と蜜の流れる地
旧約聖書「出エジプト記」は、モーゼがエジプトに捕われていたイスラエルの人々を助け、神の約束の地まで連れて行くという話です。映画「十戒」のシーンにもあるように、いよいよ追っ手が迫った時、突然海が割れ道が開ける逸話は有名です。モーゼが目指した約束の地カナンは“乳と蜜の流れる地”とされた理想郷です。ミルクが豊かさを象徴するものだったことがうかがえます。
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ミルクで暮らす遊牧民
紀元前3世紀末、モンゴル高原に匈奴(きょうど)と呼ばれる強大な騎馬民族国家が生まれました。かの万里の長城も匈奴を恐れた秦の始皇帝(しこうてい)が築いたもの。匈奴は馬、牛、羊を遊牧し、その乳を食の基本にしていました。それは今もモンゴルの暮らしに受け継がれています。ウルムやシャルトスなどモンゴルの乳加工品は30種余りもあるといわれています。
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