牧場通信

茨城県 パイオニアファーム

牧場名 有限会社 PIONEER FARM
所在地 茨城県小美玉市柴高788
開設 昭和24年
規模 年間出荷乳量 約6,500t
飼料畑 約100ha
牛の頭数 成牛/約700頭
育成牛/約250頭
預託牛/約350頭
牛舎 フリーストール

(2019年10月)

パイオニアファームは、茨城県の霞ヶ浦湖の北部、人口約5万人の小美玉(おみたま)市にあります。
お話を伺ったのは、朝倉実行さん(69歳)。
実行さんのお父さまが、この地で酪農を始められ、牛40頭で引き継がれた後、今では、1000頭を越す関東屈指の大規模牧場(メガファーム)に育て上げられました。
牧場の日々の運営は、息子さんと娘さん兄妹にゆだね、美野里酪農業協同組合の組合長として、地域酪農振興のためにもご活躍されています。

牧場の歴史と牛への思い

初代が酪農を始めたのは実行さんが生まれた昭和24年。食糧難の時代だった為、子供(=実行さん)に牛乳を飲ませてあげようと1頭飼い始めたのが最初。
実行さんは、学校を卒業した後、スーパーの丁稚(店員)や、ガソリンスタンド、トラクターの運転手とかいろいろやってみたけど、結局、酪農を継ぐことにしたとのこと。

昔のサイロ跡

昔のサイロ跡

「小さい時から牛がそばにいたからかなぁ… それに上手にやれば儲かりそうだったし…」と酪農をすることに決めた動機を照れながら話してくださいました。

引き継いだ直後は、子牛を育てて高く売ろうとしたが、とても、北海道産にはかなわないと思い、2年目、搾乳に方針転換。50頭、100頭、300頭と乳牛を増やして、現在に至っています。また、酪農を志す研修生を受け入れており、今までに100人以上がこの牧場から巣立っています。

お気に入りのポニー

「牛は生き物。365日毎日、休み無く世話することが大事」と語る実行さん。牧場には、犬、猫、鶏(うこっけい)、ロバ、ウサギ、伝書鳩、ポニーも飼われています。ポニーはイベントなどで大人気で、特にお気に入りだそうです。

仕事は楽しくやらなきゃだめ

「何の仕事でもそうだけど、つらいことがたくさんある。でも、いやだいやだと思って仕事をしていたんじゃだめだな。なんか楽しいことを見つければ長続きするし、がんばれる」
「若いときは、それこそ一日も休まないでがんばった。30代40代はがむしゃらに働いた。その先に夢があると思うからがんばれる。年に1回、北海道へ出張に行けた。これが楽しみで、待ち遠しくて…もう80回は行ったよ。組合の研修も北海道にした。今でもこれはつづけているよ」

共進会(牛の美人コンテスト)に出場することも楽しみの一つ。「入選して褒められれば楽しみになる」と、ご自宅には数え切れないほどのトロフィーなどが飾ってありました。

酪農の核は家族

現在社長を務める修一さん

梢さんとイベントなどで活躍するポニー

現在は経営をご子息の修一さんに譲り、牧場は修一さんとお嬢様の梢さんが力を合わせて運営しています。

「酪農の核は家族。家族と従業員に支えられてきた。家族がチカラをあわせないと酪農はうまくいかない」とおっしゃいます。

従業員は16人雇われていますが、そのうち11人はインドネシアやフィリピンからの留学生。実行さんが自らスカウトしてきたそうです。ただ、搾乳など、最も大事な仕事は、必ず家族の誰かが立ち会うようにしているとのこと。また、「家族であっても明確な責任分担のために給料制にしている」といいます。

実行さんはかつて、自分の考えとお父様のやり方がぶつかることがあり、それでも自分が正しいと思ったことは信念と覚悟を持ってやってきたそうです。そうした経験があるから、経営を譲った今、ご子息の修一さんの方針に任せているとのこと。「息子が親父と意見が全く同じほうがおかしい。自分なりの考えを持って、新しい世代としてのやり方を切り開いてほしい」と話します。

一戸建ての家主は・・

生まれたばかりの子牛は、すぐに母牛から離されて一頭ずつ小屋(カーフハッチ)で、育てられます。この牧場には、50個ほどの木造の小屋があります。作業効率をよくするために、地面に固定しないで、全体を持ち上げられるつくりになっています。
「全部私の手作りなんですよ」と梢さん。
こんなところにもすてきな工夫がされていました。

「狭いながらも楽しい我が家」と子牛が言ったとか言わなかったとか・・・(笑)

大牧場だけど・・・・

こんなにたくさんの牛を毎日管理するのは大変ですねと尋ねると、「大事なのは観察力。よぉ〜く牛を観察すること。1頭を掌握できればその集まりが10頭、100頭となる。あせらなくてもついてくる」「これは、息子にも言ってるんだ」

1000頭以上の牛を管理し、関東でも5本の指に入るほどの大牧場ですが、基本は、「1頭から」。成功の経営哲学と感じました。

品質へのこだわり

「牛の首輪の青いプラスチックは個体管理用のICチップが入ってます。ミルキングパーラー(搾乳場所)では、それで1頭ずつの体調や乳質管理をしています」とのこと。「例えば搾乳量が前日と20%違うとアラームが出ます。1頭ずつ自動的に乳質を測る機械のため、品質管理を徹底し、良質な牛乳をお届けできます」と品質に自信をもってらっしゃいます。

青いICチップをつけた牛たち

ミルキングパーラー(搾乳室)

耕畜連携

酪農家にとって、牛の糞尿の処理は大きな問題です。
牛の健康管理、衛生面はもちろんですが、毎日でる糞尿は、発酵処理することで立派な堆肥になります。朝倉さんは、地域の野菜農業や牧草の肥料として活用する取り組みを進め、農耕と畜産が連携できる環境作りを目指しています。
また、地場であまった食品廃棄物(例えばおから)を家畜の餌に利用できないかなど、組合長として地域酪農の振興に日々心を砕いていらっしゃいます。

魅力ある酪農に

  • 全自動の搾乳ロボットが2台稼働しています

実行さんは今、お孫さんが他の牧場で修行中ということで、ゆくゆくは後継者としてパイオニアファームを支えていってくれるのではないかと期待されています。

パイオニアファームでは、規模拡大を図って10年前に牛舎を増やしたほか、搾乳ロボットを2台導入しましたが、「若い人に酪農への興味を持ってもらいたい。そのために魅力ある牧場にしていきたい」と実行さんはいいます。これまでも、規模拡大や効率化への投資について周囲の理解を得ることが難しいこともあったそうですが、しっかりと経営で結果を出すことで屈指のメガファームへの道を歩んできました。「さらに搾乳ロボットを増やして専属の従業員を雇い、朝晩交代制を導入するなど、働きやすい場にしていきたい」とのことで、今後の魅力ある牧場づくりへの構想は広がっているようです。

編集後記

たいへん貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。有限会社 PIONEER FARM(朝倉牧場)さんは、徹底した品質管理のもとに、ご家族が一致協力して安心でフレッシュな生乳を生産されています。その一部は、雪印メグミルクの野田工場に納められます。牧場で絞られた風味を損なうことなく、おいしい「雪印メグミルク牛乳」を製造・お届けする事がメーカーの使命と深く感じました。

2019年10月
(前回取材:2007年)

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